第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編
男の動きが止まる。
その目の前へ、六幻の切先が突き付けられていた。
「……触るな」
冷たい声。
神田だった。
彼は私の前へ立ったまま、振り返らない。
ただ、その背中だけで男を押さえ付けるような圧を放っていた。
支配人の顔が、初めて強張る。
「き、君は……」
「喋んな」
神田の声がさらに低くなる。
「次、こいつに手ぇ伸ばしたら斬る」
背中越しに落ちた言葉に、私は小さく息を呑んだ。
神田の怒りは、普段から鋭い。
けれど今の声は、いつも以上に冷たかった。
任務を邪魔されたから、というだけでは説明のつかないほどに。
私は小さく息を吐く。
それから、神田の横へ一歩出た。
光のレイピアの切先を、静かに支配人の喉元へ向ける。
「……あなたが見ているのは、愛じゃない」
支配人の瞳が揺れる。
私は視線を逸らさない。
「残された人の弱さにつけ込んで、死へ引きずっているだけ」
喉の奥で、『ニルヴァーナ』が静かに脈打つ。
「会いたいと願うことも、戻ってきてほしいと泣くことも、間違いじゃない」
その瞬間。
エリアーデの最後の声が、耳の奥を掠めた。
――あなたを、愛したかったのにな。
そして。
彼女を抱き締め、壊れそうな声で泣いていたクロウリーの姿。
あの痛みは。
誰かに見世物として消費されていいものではなかった。
愛した人を失い。
それでも、生きていかなければならない者の。
どうしようもなく、本物の痛みだった。