第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編
宿の一室で、私は団服を脱いだ。
絹の擦れる音が、薄暗い部屋へ静かに響く。
鏡の中に映るのは、深紅のドレスへ身を包んだ“歌姫”としての私だった。
喉元は、黒い刺繍の施された細いハイネックで覆われている。
その下から胸元へ向かい、雫型に肌を覗かせる深紅のシルク。
腰から裾へ流れる柔らかな布は、歩くたびに赤い波のように揺れた。
華やかで。
目を引いて。
あまりにも、戦場には不似合いな格好。
けれど、本当に守るべきものは隠されている。
刺繍入りの布の下で、『ニルヴァーナ』が静かに脈打っていた。
まるで、この劇場へ満ちる歪んだ気配へ反応するみたいに。
身支度を終え、深く息を吸う。
その時。
扉の向こうから、低い声が落ちた。
「……終わったか」
「ええ」
返事をすると、扉が開く。
入ってきた神田が、私を見た。
その視線が、一瞬だけ止まる。
本当に、ほんの一瞬だけ。
けれど、その間が妙に長く感じられた。
神田の瞳が僅かに揺れ、すぐに鋭く細められる。
六幻の鞘が、低く鳴った。
「……その格好で前出る気か」
「そのための潜入でしょう?」
「分かってる」
被せるような声。
神田は苛立ったまま視線を逸らす。
「だから余計タチ悪ぃんだろ」