第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編
「今夜?」
「支配人は、話題性を重視する人物です。客の前で突然現れた美しい歌姫――その方が彼の趣味に合うと、協力者が」
「……本当に、趣味悪ぃな」
神田が吐き捨てる。
トマは静かに頷いた。
「同感です。私はスタッフ側から入り、舞台裏と観客席の避難経路を押さえます。現地のファインダー達も、既に客席周辺と裏口へ配置済みです。異変が起きた場合は、観客の誘導と支配人の拘束に回ります」
「分かったわ」
私が頷くと、トマは小さく会釈した。
「では、後ほど劇場内で」
それだけ言い残し、人混みへ静かに紛れていく。
残されたのは、私と神田だけだった。
劇場前には、なおも熱狂した観客達が押し寄せている。
笑い声。
拍手。
期待。
その全てが、妙に空虚だった。
その時。
「……行くぞ」
低い声が落ちる。
振り返る。
神田が、不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。
「着替えるんだろ」
「ええ」
私は小さく頷き、神田と共に劇場近くの宿へ向かった。