第25章 【第二十四話】終幕なき夜・前編
夜の汽車は静かだった。
規則的な走行音だけが、薄暗い個室へ響いている。
トマは個室の外で現地協力者との連絡内容を整理すると言い、出発してすぐ席を外していた。
個室に残っているのは、私と神田だけ。
向かい側へ座った神田は腕を組み、窓の外を流れる夜景を無言で眺めている。
私は膝の上へ置いた資料を閉じ、小さく息を吐いた。
喉元へ、そっと指先を当てる。
あの劇場。
資料越しですら感じた、嫌な気配。
魂を直接奪っているわけではない。
けれど、生きている人の心を、少しずつ死の方へ傾けている。
死者へ会いたいと願う気持ちへ、黒い糸を絡ませるように。
そんな歪みが、紙越しにも滲んでいた。
その時だった。
「……お前」
低い声が落ちる。
顔を上げると、神田がじっとこちらを見ていた。
「何?」
数秒の沈黙。
やがて神田が、小さく眉を寄せる。
「初めて会った時」
どくり、と胸が跳ねた。
神田は視線を逸らさない。
「あの顔、何だった」
静かな声。
私は一瞬、息を止める。
初めて彼と向き合った時。
刀を振るう神田を見た瞬間、喉の奥で『ニルヴァーナ』が強く警戒した。