第25章 【第二十四話】終幕なき夜・前編
「…………」
私は固まる。
コムイさんの眼鏡が、ずるりとずり落ちた。
トマが、抱えていた資料へ静かに視線を落とす。
そして。
神田だけが、ぴたりと動きを止めていた。
その視線が、ゆっくりラビへ向く。
「……恋人?」
低い声。
怒っているようにも、呆れているようにも聞こえる。
けれど、その響きには、いつもの苛立ちとは違う何かが混ざっていた。
私は一気に顔が熱くなった。
「ラ、ラビ……!」
ラビはそこでようやく、周囲の反応に気付いたらしい。
「あ」
珍しく、間の抜けた声を出す。
けれど。
次の瞬間には、小さく息を吐き、私の隣へ立った。
誤魔化すつもりなどないみたいに。
「……そうだけど」
静かな声。
胸が、どくんと跳ねる。
神田は何も言わなかった。
ただ、ラビを見たあと、今度は私へ視線を向ける。
その目が、何を考えているのかは分からない。
けれど、その視線を受けた瞬間、何故か胸の奥が僅かにざわついた。
「……まあまあ、詳しい話はまた今度にしよう!」
コムイさんが、無理矢理明るい声を出す。
「今は任務! 非常に危険な任務だからね!」
「話逸らすの下手過ぎるさ、コムイ」
ラビが呆れたように息を吐く。
けれど、その表情はすぐ真面目なものへ変わった。
手にしていた包みを、私へ差し出す。
「はい、これ薬」
「ありがとう」
受け取ると、彼の指先が私の手へ一瞬だけ触れた。
ほんの僅かな接触。
「……無茶だけはすんな」
低い声。
その響きだけで、胸の奥がじんわり熱くなった。