第25章 【第二十四話】終幕なき夜・前編
そんな私を見ながら、コムイさんが静かに頷く。
「そこで、ティファちゃん。今回、君には劇場へ潜入してもらう」
「潜入?」
「支配人は、新しい歌姫を探しているらしい。数日前、劇場へ売り込みに来ていた歌手が突然失踪した。どうやら支配人は、舞台の“死”をより美しく彩れる声を欲しがっているようだ」
コムイさんは一度言葉を切った。
「君の歌声なら、十分に餌になる」
私は静かに息を呑む。
その瞬間。
ガン、と荒い音が響いた。
神田だった。
六幻の鞘尻を、苛立ったように床へ鳴らしている。
「……ちっ。くだらねぇ」
低い声。
「そんな面倒な真似しなくても、支配人ごと斬れば済む話だろ」
「神田くん、今回は潜入任務なんだよ。支配人だけ捕らえても、舞台に仕込まれた能力や支援者の繋がりを押さえられなければ、同じことが繰り返される」
「知るか」
吐き捨てる声音。
けれど、神田の視線は資料ではなく、私の方へ一瞬だけ向けられていた。
私は小さく息を吐く。
「神田」
「……あ?」
「私の護衛、任せてもいい?」
静かに聞くと、神田の眉間へさらに皺が寄る。
数秒の沈黙。
やがて。
「……勝手にしろ」
ぶっきらぼうな返事。
けれど、それは承諾と同じだった。
コムイさんが安堵したように息を吐く。