第25章 【第二十四話】終幕なき夜・前編
「劇場の支配人は、AKUMAブローカーと見て間違いない」
コムイさんが資料の端を指で押さえる。
「ただ、厄介なのは彼一人じゃない。上流階級の中に、この舞台を“本物の悲劇芸術”として崇拝している者達がいるようだ」
「支援者……ということね」
私が呟くと、トマが抱えていた資料を一枚抜き出した。
「はい。現地のファインダーからの報告では、招待客の選別にも支援者が関わっている可能性があります」
布越しの声は静かだった。
「大切な人を亡くした者、死者との再会を強く望んでいる者、悲劇に強く心を寄せる者。そういった客を、意図的に舞台へ集めているようです」
「……知っていて、観客を集めているのね」
「その可能性が高いです」
トマの手が、資料の端を僅かに握り締めた。
頼りなげに見える目元が、その時だけ少し鋭くなる。
「舞台そのものだけでなく、客を選ぶ仕組みから潰さなければ、同じことが繰り返されます」
静かな執務室へ、紙をめくる音だけが響く。
私は資料へ視線を落とした。
豪華な劇場。
華やかな照明。
熱狂する観客。
けれど、その奥にあるものは、ひどく冷たい。
「……死者との再会を、見世物にしているのね」
掠れた声が、自然と漏れた。
「冒涜的だわ」
その瞬間、『ニルヴァーナ』が微かに脈打った。
魂を安らぎへ導くための歌。
死者は、戻ってくるために眠るのではない。
残された者を死へ誘うために、想われるのでもない。
――止めなければならない。