第25章 【第二十四話】終幕なき夜・前編
「……趣味悪ぃな」
壁際から、神田の低い声が落ちた。
腕を組んだまま、彼は資料へ視線だけを向けている。
その眉間には、既に深い皺が寄っていた。
「でも、問題は舞台そのものじゃない」
コムイさんは、別の資料を差し出した。
そこには、いくつもの記録が並んでいる。
観劇後、数日以内に自死。
観劇後、行方不明。
観劇後、遺族がAKUMA化。
そして、死の直前に残された、よく似た言葉。
――向こう側で、あの人が待っている。
私は眉を寄せた。
「……これは」
「この舞台を観た客の一部が、後日、精神に異常をきたしている」
コムイさんの声が、静かに落ちる。
「亡くした恋人や家族の声が聞こえる、と言い出すんだ。夢の中で“こちらへ来れば会える”と囁かれるらしい。そして最終的には、自分も死ねば舞台の向こうで再会出来ると思い込む」
室内が静まり返った。
神田の眉間へ、深い皺が寄る。
トマは抱えていた資料を、僅かに強く握り直した。
「さらに、その死を受け入れられなかった遺族や恋人が、伯爵に縋る」
コムイさんは資料の端を指で押さえる。
「結果、AKUMAが生まれる」
喉の奥で、『ニルヴァーナ』が強く脈打った。
死者を。
喪失を。
再会という甘い言葉で、生きている人の心を死へ向かわせる。
その響きだけで、嫌悪感が胸をざらつかせた。