第25章 【第二十四話】終幕なき夜・前編
「今回、同行するトマだ」
コムイさんが手で示した。
「現地での情報収集と、潜入経路の確保を担当してもらう。パリには既に数名のファインダーが待機しているから、異変が起きた場合の避難誘導や、容疑者の確保も彼らと連携して進めてもらうよ」
「トマです。よろしくお願いします」
青年は短く頭を下げた。
布越しにくぐもった声ではあるけれど、受け答えは落ち着いている。
「よろしく」
私が返すと、神田は無言のまま僅かに顎を引いた。
それを挨拶と受け取ったらしい。
トマも特に気にした様子はなかった。
コムイさんは机の上へ一枚の資料を広げた。
そこには、豪奢な劇場の写真。
赤い幕。
金色の装飾。
夜の闇へ浮かび上がる巨大な看板。
その下に、大きく印刷された演目名があった。
『終幕なき夜』
嫌な存在感のある文字だった。
「パリの繁華街にある劇場で、最近異様な人気を博している演目だ」
コムイさんの声が低くなる。
「表向きは、死んだ恋人が舞台上で蘇るという悲恋劇。観客達は“究極の悲劇”として熱狂しているらしい」
私は資料へ視線を落とした。
舞台写真。
黒い棺。
赤い幕。
泣き崩れる女優。
その背後に立つ、青白い顔の男。
美しい場面として切り取られているはずなのに。
喉の奥で、『ニルヴァーナ』が微かにざわついた。