第25章 【第二十四話】終幕なき夜・前編
鍛錬場でのやり取りから数日後。
右肩の違和感はまだ完全には消えていなかったけれど、医療班からは正式に任務復帰の許可が下りた。
神田との軽い手合わせも、問題なく終えられた。
もっとも、あの日から神田の機嫌が妙に悪い理由だけは、結局分からないままだった。
そして私は、再びコムイさんの執務室へ呼び出された。
コムイさんの執務室は、崩れそうなほど高く積み上がった書類の山に占拠され、冷めたコーヒーと古びた紙の匂いが入り混じっていた。
窓から差し込む淡い朝の光が、散乱する資料を白く照らしている。
「……さて、単刀直入に言おう」
コムイさんが、眼鏡のブリッジを指で押し上げる。
その声音には、いつもの軽さがなかった。
「今回の任務は、かなり悪趣味だ。しかも、慎重な立ち回りが要求される」
私は自然と表情を引き締めた。
視線を横へ向ける。
壁へ背を預けた神田が、腕を組んだまま黙って立っていた。
相変わらず不機嫌そうな顔。
けれど、こうして同じ任務説明を受ける光景にも、もう慣れている。
その少し後ろには、今回同行するファインダーの青年が立っていた。
深く被ったフードの下、口元から首元までは布で覆われている。
露わになっているのは、大きく見開かれた目元だけだった。
一見すると、どこか頼りなげで落ち着かない印象を受ける。
けれど、両腕へ抱えた分厚い資料を支える手つきは、意外なほどしっかりしていた。