第24章 【第二十三話】恋人になった朝、揺れる剣
数秒の沈黙のあと、アレンが少しだけ冗談めかすように口元を緩める。
「昨日も言いましたけど、ラビに泣かされたら、ちゃんと言ってくださいね」
少し明るすぎる声だった。
いつものアレンらしく笑っているのに、その笑顔だけが、ほんの少しだけ無理をしているように見えた。
私は小さく目を瞬かせる。
「え?」
「その時は、僕が本気で怒りますから」
冗談みたいに言っているのに、瞳だけは真剣だった。
「……うん」
「約束ですよ」
「ええ」
アレンは満足したように小さく頷いた。
そして、私の横を通り過ぎようとする。
その時。
私はふと、以前なら彼が自然に私の髪へ触れたり、肩を気遣うように手を伸ばしたりしていたことを思い出した。
けれど今、アレンの手は下ろされたままだった。
私へ触れることなく。
それでも、優しい微笑みだけは崩さずに。
「……それじゃ、また後で。ティファ」
いつもより少しだけ軽い声。
けれど、背を向けるのが少し早かった。
私はしばらく、その背中を見送っていた。
以前と同じようには、もう戻れない。
けれど。
アレンが大切な人であることまで、失くしたわけではない。
胸の奥へ残る小さな痛みを抱えたまま、私はゆっくり食堂の方へ視線を戻した。
その先には、ラビがいる。
もう、迷ってはいけない。
私は小さく息を吸い、静かに歩き出した。