第21章 【第二十話】残り香は、まだ熱い
ラビは何でもない顔で扉へ向かった。
「怪我人を一人で歩かせたら、リナリーに蹴られるさ」
「それは……否定できないわね」
思わず苦笑すると、ラビも小さく笑った。
「ほら、行くぞ」
そう言って、ラビは扉を開ける。
私は小さく息を吐き、彼の後を追って医務室を出た。
廊下には、夕暮れの名残を含んだ淡い光が長く差し込んでいた。
ラビは私の少し前を歩きながら、時折こちらを振り返る。
何か言うわけではない。
ただ、私の歩幅に合わせるように、いつもより少しだけゆっくり歩いている。
そのさりげなさが、かえって胸に残った。
部屋の前まで来ると、ラビは足を止めた。
「ちゃんと休めよ」
「……分かってるわ」
「あと、歓迎会まで寝落ちすんなよ。クロちゃん泣くさ」
思わず小さく笑う。
「努力する」
ラビも笑った。
それから、ほんの一瞬だけ私の髪へ視線を落とす。
さっき触れられた場所が、また熱くなった。
けれど彼は何もせず、軽く片手を上げただけだった。
「じゃ、後でな」
「……ええ。後で」
ラビが廊下の向こうへ歩いていく。
その背中が角を曲がって見えなくなるまで、私はしばらく扉の前に立っていた。