第21章 【第二十話】残り香は、まだ熱い
ただ髪に触れられているだけなのに。
距離が、近すぎた。
指先から、耳元から、胸の奥まで熱が広がっていく。
「や、やめて……」
声は出たのに、身体は動かなかった。
ラビの翠の瞳が、わずかに細まる。
「嫌?」
問い返す声が、ひどく甘い。
私は答えられなかった。
嫌じゃない。
けれど、そう認めてしまったら、もう誤魔化せなくなる気がした。
ラビは答えを急かさなかった。
ただ、私の髪を指に絡めたまま、逃げ道を塞ぐみたいに静かに見つめている。
「ティファ」
「……なに」
「顔、赤い」
「誰のせいだと思ってるの」
思わず言い返すと、ラビが一瞬だけ目を見開いた。
それから、ふっと小さく笑う。
「……ごめん。からかいすぎた」
低く落ちた声が、さっきまでより少しだけ優しかった。
ラビの指が、ようやく私の髪を離れる。
急に距離が空いたはずなのに、触れられていた場所だけがまだ熱い。
「別に……」
そう返すのが精一杯だった。
ラビは困ったように目を細める。
「そういう顔されると、ほんと調子狂うさ」
胸が、また跳ねた。
私はそれ以上ラビを見られなくなって、逃げるように立ち上がる。
「……部屋に戻るわ。着替えたいし、少し休みたいの」
「送る」
「一人で戻れるから」
「却下」
即答だった。
あまりにも自然に返されて、私は思わず言葉に詰まる。