第20章 【第十九話】もう譲れない
その時。
廊下の奥から、杖をつく音が近付いてきた。
先ほど私の傷を治療した老医師だった。
村人達の間を抜け、クロウリーの前で足を止める。
医師の目にも、警戒は残っている。
けれど。
しばらくクロウリーを見つめたあと、彼は深く息を吐いた。
「……傷を負った者を、雪の中へ追い返すほど薄情ではない」
クロウリーが、目を見開いた。
「し、しかし吾輩は……」
「黙って診せろ。牙があろうがなかろうが、血を流しているなら患者だ」
ぶっきらぼうに言い放つ。
村人達の間に、ざわめきが広がった。
「先生……!」
「危険では……」
「不安なら帰れ。ここは診療所だ」
医師は一喝し、それ以上の言葉を許さなかった。
クロウリーは、その場へ立ち尽くしていた。
やがて。
深々と頭を下げる。
「……ありがとう……である……」
その声は、泣きそうに震えていた。
医師は私の包帯へ一度視線を向け、それからクロウリーの青白い顔を見る。
「娘さんは今夜動かせん。そちらの男も、まともに歩ける状態ではないだろう」
「でも、教団へ戻らないと……」
アレンが口を開きかける。
医師は杖で床を軽く叩いた。
「この雪の中、怪我人を連れて夜道を進む気か。死にたくなければ、今夜はここで休め」
私は窓の外を見る。
雪は、先ほどよりも強くなっていた。
「空き部屋を使え。朝になって、雪が弱まってから出発しろ」