第19章 【第十八話】偽物じゃなかった愛~クロウリー編③
「く……っ」
埃っぽい空気の中、アレンは苦しそうに身体を起こした。
そこは、古い書庫のような部屋だった。
天井まで届く本棚は半ば崩れ、床には朽ちかけた書物が散乱している。割れた窓から差し込む月光と、壁際の燭台だけが、薄暗い室内を照らしていた。
その光の端で。
壁へ、不気味な影が映る。
ゆらり、と。
人の形をしているのに、どこか輪郭がおかしい。
「……っ」
アレンが息を呑んだ瞬間、背後から甘い声が落ちた。
「捕まえた」
振り返る間もなかった。
エリアーデが一気に距離を詰め、アレンの身体を本棚へ叩き付ける。
轟音と共に木材が軋み、積まれていた本が雪崩のように落ちた。
「ぐ……っ!」
首元を押さえ付けられ、呼吸が詰まる。
エリアーデの顔が、すぐ目の前まで迫っていた。
白い肌。
紅い唇。
人間の女と変わらない美しい顔。
なのに、その瞳だけが、異様なほど冷たく光っている。
「どうして邪魔するの?」
甘い声だった。
けれど、その奥には、底知れない殺意が潜んでいた。
アレンは苦しげに息を吐きながらも、真っ直ぐ彼女を見返す。
「……貴方を……殺す理由は……ありません……」
左目が鈍く疼いた。
ロードとの戦いで傷付いたこの目は、まだ完全には戻っていない。
だから、彼女に何が潜んでいるのかも分からない。
エリアーデは小さく笑った。
「優しいのね」
白い指先が、そっとアレンの頬を撫でる。
「でも、貴方は危険だわ」