第13章 【第十二話】記録に残らない熱
ラビの翠の瞳が、遊園地の奥へ向く。
止まった売店。
半分崩れた入場口。
錆びた柵。
遠くで軋み続ける観覧車。
どれもが、雨上がりの灰色へ沈んでいる。
「前と同じ現象が、形を変えて起きてるってことか」
「……たぶん」
言い切るには、まだ情報が足りない。
けれど、喉の奥で震えるニルヴァーナは、ここにあるものを拒むように熱を持っていた。
その時だった。
――くすくす。
微かな笑い声が、遊園地の奥から聞こえた。
子供の声。
私は反射的に顔を上げる。
「今のは……」
トーマスが、震える声で呟く。
ラビが鉄槌を構えた。
「聞こえた。ティファ、下がれ」
けれど、私は動けなかった。
錆び付いたメリーゴーランドの向こう。
色褪せた馬の影に、小さな人影が立っていた。
少年だった。
十歳にも満たないだろうか。
濡れた薄いシャツ。
泥で汚れた膝。
裸足のまま、こちらを見ている。
けれど、その姿は異様だった。
輪郭が、ところどころ透けている。
腕の端が、霧みたいに崩れている。
足元の影が、身体へ追い付けずに遅れて揺れている。
生きている。
それなのに、世界から少しずつ削り取られている。
「……あの子」
喉が震えた。
少年の唇が、僅かに動く。
声は聞こえない。
けれど、確かにそう見えた。
――たすけて。
私は一歩踏み出す。