第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
白い髪は泥と汗で額へ張りつき、服は血と土で酷く汚れている。ぐったりと力の抜けた身体は、自分で立つことさえできないようだった。
けれど、私の目を釘付けにしたのは、その顔だった。
左側が、真っ赤に腫れ上がっていた。
皮膚は深く裂け、傷口の周囲は痛々しいほど赤黒い。白い髪へ半ば隠れたその顔は、苦痛に歪むことさえなく、ただ力なく伏せられている。
泣いてはいなかった。
これほど酷い傷を負っているのに、涙の一つも流していない。
眠っているわけでもない。
気を失っているわけでもない。
ただ、痛みを訴えることも、助けを求めることも、すべてを諦めてしまったように見えた。
その静けさが、かえって痛々しかった。
「……その子……」
掠れた声が零れる。
師匠は答えず、そのまま部屋へ入ってくる。
マザーが編み物を置き、すぐに立ち上がった。
「クロス。お前さん、何を拾ってきたんだい」
「拾ったんじゃねぇ」
師匠の声は、いつも以上に低かった。
「……俺が見つけた時には、もうこうなってた」
マザーは少年の顔を見る。
その鋭い瞳が、僅かに細められた。
「寝床へ運びな。話はあとだよ」
師匠は黙ったまま、少年を抱えて廊下の奥へ向かった。
私は立ち尽くしていた。
少年の左手が、師匠の腕からだらりと垂れている。
異様な形をした、赤黒い腕。
それを見た瞬間、喉の奥に宿るニルヴァーナが、微かに熱を持った気がした。
「ティファ」
マザーの声に、はっと顔を上げる。
「湯と清潔な布を持ってきな。ぼさっとしてる場合じゃないよ」
「……はい」
私は慌てて頷き、台所へ駆けた。
その時の私は、まだ知らなかった。
あの少年が、何を失ったのか。
その左腕で、何を壊してしまったのか。
そして、その痛みが、どれほど深く彼の心を蝕んでいたのかを。