第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
アレン・ウォーカー。
今の彼は、時に私を追い越すほどの逞しさを、その背中に宿している。
柔らかな物腰の奥に、折れない意志を抱え、傷つきながらも誰かのために前へ進み続ける人。
けれど、初めて出会った頃の彼は――触れれば粉々に砕け散ってしまいそうなほど危うい、孤独な欠片だった。
師匠、クロス・マリアンが、血と泥にまみれたその少年をマザーの屋敷へ連れてきた日のことを、私は一生忘れない。
その日、師匠は朝から姿を消していた。
理由は聞いていない。
聞いたところで、素直に答えるような人ではなかったからだ。
私はマザーの屋敷の小さな居間で、窓の外を眺めていた。
空は重たい雲に覆われ、夕暮れ前だあわというのに辺りは薄暗い。暖炉の薪が小さく爆ぜる音だけが、静かな部屋へ響いている。
「落ち着かないなら、外でも走ってきたらどうだい」
暖炉の傍で編み物をしていたマザーが、顔も上げずに言った。
「……別に、落ち着かないわけでは」
「クロスが戻らないからって、さっきから何度窓を見たと思ってるんだい」
図星を刺され、私は小さく口を噤んだ。
師匠は、いつも勝手だった。
何日も姿を消すことだって珍しくない。帰ってきたと思えば、酒と煙草の匂いを纏い、面倒そうな顔で次の修練を言い渡す。
けれど、その日はなぜか、胸の奥がざわついていた。
やがて。
玄関の扉が、重たい音を立てて開いた。
冷たい夜気が、屋敷の中へ一気に流れ込む。
私は反射的に立ち上がった。
「師匠――」
呼びかけた声が、途中で止まる。
戻ってきた師匠の腕の中に、小さな身体があった。
少年だった。