第12章 【第十一話】触れてはいけない距離
銀灰色の瞳が、不安そうに揺れる。
巻き戻しの街で、彼もまた大きく傷付いたばかりなのに。
自分の痛みよりこちらを案じる顔は、師匠のもとで過ごしていた頃から変わらなかった。
私は彼を安心させるように微笑み、添えられた手へ自分の指を重ねる。
「分かったわ。ちゃんと診てもらうから、そんな顔をしないで」
「……約束ですよ」
「ええ、約束」
そう答えながら、私はアレンの白い髪へ残っていた雪の粒をそっと払った。
触れた髪は、外気を含んで冷たい。
「アレンこそ、左腕と目は大丈夫?無理を、してたでしょ?」
「僕は……」
アレンは一度言葉を止め、それから少し困ったように笑った。
「ティファに会えたから、少し元気になりました」
「それで怪我が治るわけじゃないでしょ?」
「でも、本当です」
小さな声。
「ティファの隣にいると、落ち着くんです。昔から」
そう言って、アレンはほんの少しだけ私との距離を縮めた。
甘えるようで。
けれど、どこか縋るような仕草。
幼い頃から知っているその温度を、私は拒むことができなかった。
長く会えなかった分だけ、彼がここにいることを確かめたかったのは、私も同じだったから。
その時。
少し前を歩いていた足音が、ふいに止まった。
気付けば、ラビが数歩先で立ち止まっている。
けれど、こちらを振り返らない。
赤茶色の髪が、冷たい廊下の灯りの下で僅かに揺れていた。