第12章 【第十一話】触れてはいけない距離
教団本部の石門が、重々しい音を立てて閉ざされた。
その音を背中で聞いた瞬間、ようやく襲撃の硝煙と、長い帰路で染み込んだ雪混じりの冷気から解放されたのだと実感する。
鼻を掠めるのは、慣れ親しんだ石造りの建物の匂いと、遠くから微かに漂う消毒液の匂い。それから、冷え切った身体へ染み込む石炭ストーブの熱。
張り詰めていた神経が、ほんの少しだけ緩んだ。
巻き戻しの街から帰還したのは、私たちエクソシスト五名とコムイさんだった。
リナリーは念のため検査を受けることになり、コムイさんとブックマンに付き添われて医務室へ向かっていく。
その細い背中が廊下の奥へ消えていくまで見送ってから、私は小さく息を吐いた。
「ティファ」
控えめな声が、すぐ隣から落ちる。
振り向けば、アレンが心配そうにこちらを見上げていた。
「肩の傷……また血が滲んでいます。早く診てもらわないと」
彼の視線の先へ目を落とす。
黒の団服の肩口は裂け、銀の縁取りの傍へ赤黒い染みが広がっていた。病院での襲撃の最中は気にならなかった痛みが、本部へ戻った途端、熱を持って主張し始める。
「平気よ。これくらいなら――」
「駄目です」
いつもより少しだけ強い声音だった。
アレンの手が、私の腕へそっと添えられる。
その指先は、微かに震えていた。
「ティファは、すぐそうやって大丈夫だって言うから……」