第12章 【第十一話】触れてはいけない距離
「……お熱いことで」
ぽつりと落ちた声は、いつもの軽い調子に似ていた。
けれど、どこか薄い。
笑っているはずなのに、笑い声として届かない。
胸の奥が、僅かに強張る。
「ラビ」
思わず呼び止めた。
「あなたも、少し休んだ方が――」
「オレより、そっちの怪我人見てやった方がいいんじゃねぇの?」
ラビは振り返らないまま、軽く笑った。
「……あんたの隣にいると、随分元気になれるみてぇだしさ」
冗談めかした声だった。
けれど、その言葉の端は、冷たい棘のように胸へ刺さった。
「……ラビ、それは」
何を言おうとしたのか、自分でも分からない。
病室で、私を引き寄せた時の彼の手は、確かに震えていた。
汽車の中では、そのことに触れようともせず、何事もなかったように窓の外を見ていた。
そして今は、アレンへ触れた私を見て、まるで自分から遠ざかろうとするみたいに背を向けている。
どうして。
その問いが、喉の奥まで込み上げる。
けれど、言葉にはならなかった。
私が黙っていると、ラビは肩を竦めるように片手を上げた。
「じゃ、オレは先行くさ。じじいに記録も出さなきゃなんねぇし」
軽い足取りで、彼はそのまま歩き出す。
けれど、その背中はどこか硬かった。
アレンが、私の隣で僅かに息を止めた気配がする。
「……ティファ?」
「大丈夫よ」
咄嗟にそう答えた。
けれど、自分の声が思ったより静かに響いた。
遠ざかっていくラビの背中。
腕へ添えられたままのアレンの手。
冷え切った石床へ伸びる三人の影。
その間に落ちた距離だけが、妙に深く感じられた。