第41章 【第三十六話】記録者の帰る場所
「違うさ」と返しながら、心のどこかで、諦めていた。
覚えているなんて、面倒なだけだと。
もう一人のラビの表情が、止まった。
「記録は、役目だから残す。感情なんか、混ぜなくてもいい。……でも、覚えてるってのは、もっと面倒で、もっと勝手なもんだ」
ラビは、水面のティファを見る。
「あの時、ティファに聞かれた問いに……今なら、答えられる」
声が、静かに落ちた。
「面倒でも、勝手でも、構わねぇ」
今度は、もう一人の自分をまっすぐ見据える。
「オレは、ティファを、覚えてる。ずっと、覚えてたい」
口の端が、僅かに上がった。
「掟がどうとかじゃねぇ。……オレが、そう決めたんさ」
その瞬間、水面に映っていたもう一人のラビの輪郭が、ゆっくりと滲んでいく。
「……そうかよ」
低い声。
責めるでも、嗤うでもなかった。
どこか、ほっとしたような。
「なら、もう、オレの出番はねぇな」
もう一人のラビが、薄く笑う。
初めて。それは、ラビ自身の顔で。
「行ってこいよ。……お前の、戻る場所へ」
水面が、砕けた。
光が、満ちていく。
暗い水場が、崩れ落ちていく。
最後に、もう一人の自分の声だけが、遠く残った。
「……ちゃんと、覚えてろよ。全部な」
ラビは、笑った。
「ああ」
光が、視界を呑む。
「言われなくても」