第41章 【第三十六話】記録者の帰る場所
「ここは、夢の一番奥」
声がした。振り返る。
水面の向こうに、もう一人の自分が立っていた。
笑っていない。
ただ静かに、こちらを見ている。
「火判を放った瞬間、お前はここまで落ちてきた。……最後に、確かめておきたくてな」
「……確かめる?」
「お前が、いつから“こう”なったのかをさ」
もう一人のラビが、ゆっくり歩いてくる。
水を蹴る音すら、しない。
「48番目までのお前は、こんなふうに揺れなかった。どんな戦場も、どんな死も、ただ記録して、次のログへ進むだけだった」
胸の奥が、軋む。
「なのに、49番目の“ラビ”は……痛がってる。仲間が傷つくたびに。あいつが、いなくなりそうになるたびに」
「……っ」
「なんでだよ」
問いが、刃みたいに刺さる。
ラビは、答えられなかった。
分かっている。
そんなこと、とっくに。
「人間なんて、争いばかり起こす、愚かな種族だ」
もう一人の自分が、静かに続ける。
「オレたちは、それを記録するだけの存在だ。心を移しちゃいけない。誰かを、特別に想っちゃいけない」
水面に、影が映る。
幾つもの戦場。
幾つもの死。
ラビが、ただ眺めてきたもの。
「お前だって、そう思ってただろ。人間に、失望してた。自分は、あいつらとは違うって。そう信じてた」
「……ああ」
掠れた声で、認めた。