第10章 Cries in vain★
紅孩児side
「八百鼡!八百鼡!」
女を抱えながら八百鼡を呼べば何事かとパタパタ此方に向かってくる足音が聞こえた
「紅孩児様、どうされましたか!?
…っ!その女性は……」
腕の中の女を見て八百鼡は絶句した
「你健一が玄奘の所から攫ってきたらしい。特異体質があるとかで実験に使えるかどうか試していたようだ。
……随分手荒いことをしてしまった。
すまないが整えてやってくれるか」
「っっ!はい!お湯を沸かして来ます…!」
走っていく八百鼡を横目に俺はそのまま自室へ向かい、ベッドに女を横たえる。
紅い髪を指で梳きそのまま手を滑らせ頬を撫でると、女はうっすら瞼を上げた。
「紅孩児さ…ん…大丈夫…です…か?」
大丈夫も何も、それを言うのはお前じゃないだろう。伸ばした手を握って、俺は「ああ」とだけ答える
「痛いのは…なくなりましたか…?」
そういえば折られた指の痛みは感じない。
握っている手に目をやると、逆側に向いていた小指は折られたと言うのが嘘かのように自然な向きに戻っていた
ぎゅっと強く握りしめ俺は再度「ああ」と答えると、それに安心したのか女は少し目尻を下げ消え入りそうな声で「良かった…」とだけ呟き再び意識を手放した
ヤツが言っていたこの女の特異体質というのは、折られた指が治っていたことと関係しているのだろう。実験だなんだ、どうせ碌でもない事に決まっている。
彼女にも悪いことをしてしまった…。
玄奘達もきっと探しているだろうし早く帰してやらねばな…
そう思ったところで思考がはた、と止まる
……帰す?
この女が現れてから玄奘達が強くなったのは明らかだ。彼女を帰したら奴らは益々力を付けるのではないか?そうだ、奴らは敵だ。
わざわざ敵相手に塩を送ってやる必要なんてないはずだ。