第45章 誕生日
「…………」
そっと扉を開ける。
非常階段の中は、静かだった。
ついさっきまでいたショッピングモールの喧騒が、嘘のように遠い。
上階から微かに聞こえてくる話し声だけが、コンクリートの壁に反響している。
ユカリは手すりに指を添え、一段ずつ階段を降りていく。
周囲を警戒しながら、ゆっくりと。
気配はまだ消えていない。
確かに感じる。
けれど――誰もいない。
踊り場。
非常口。
階段の下。
どこを見ても、人影はなかった。
「…………」
ユカリは足を止める。
気のせいだったのだろうか。
そう思った、その時。
視界の端に、白いものが映った。
階段の隅。
そこに、一枚の紙が落ちている。
「………?」
ユカリは眉を寄せ、ゆっくりと近付いた。
拾い上げる。
折り畳まれた、白い紙。
ただ落ちていただけにも見える。
けれど――なぜか、誰かがここへ置いたような気がした。
胸の奥が、ざわつく。
ユカリは紙をそっと開いた。
そこに書かれていたのは―――
『おめでとう』
「―――――」
ユカリは、何も言わなかった。
ただ、その文字をじっと見つめる。