第45章 誕生日
「…………」
ユカリの足が、ぴたりと止まった。
ほんの一瞬。
何かがおかしい。
言葉では説明できない、ほんの僅かな違和感。
ユカリは反射的に顔を上げた。
視線の先へ意識を向けた瞬間、背筋を冷たいものが走り抜ける。
脳裏に蘇ったのは、あの日の感覚だった。
足元から身体を呑み込んでいくような、黒い闇。
視界も、身体の感覚も、一瞬で奪われていく。
黒霧の個性によって作られた、あの禍々しいワープゲート。
あの闇に引き摺り込まれた感覚を、ユカリの身体が覚えていた。
「…………っ」
胸の奥が、きゅっと縮む。
気のせいかもしれない。
けれど――違う。
あのときと、似ている。
ショッピングモールの奥。
人の流れから少し外れた場所に、非常階段へ続く扉がある。
「ユカリ?」
環の声が聞こえて、ユカリは一瞬だけ迷った。
けれど、身体はもう動いていた。
「環、ちょっとトイレ!」
「え?」
返事を待たず、ユカリは走り出した。
袋をしっかりと握り締め、人混みを抜けていく。
廊下の角を曲がる。
そして――
非常階段へ続く扉の前で、足を止めた。