第11章 合宿
一方で、二人もまた同じだった。
爆豪は川の水面を見ながら、ほんの一瞬だけ視線を落とす。
(……距離、近ぇ)
理由は分かっている。
昨日のキスだ。
軽いとか、勢いとか、そういう言い訳はできる。
けど、頭に残っているのはそこじゃない。
“嫌じゃなかった顔”。
それがずっと離れない。
だから、余計に近くに行ってしまう。
気づけば視線はユカリを追っている。
轟も同じだった。
表情はいつも通り静か。
でも内側は少し違う。
(ちゃんと、伝わっただろうか)
あの時のキスは衝動だった。
でも後悔はない。
むしろ、あれ以上離れたくないという気持ちだけが残っている。
ユカリが笑うたびに、それが少しずつ強くなる。
(大事にしたい)
そう思うのに。
近づくと、また少し距離が分からなくなる。
「ユカリ大丈夫〜!?」
遠くから心配するねじれの声。
「う、うん大丈夫……!」
ユカリが顔を上げた瞬間――
「前見て歩けよ、先輩」
爆豪の言葉。
「っ……」
その一瞬で、また心臓が跳ねる。
何も特別なことはしていない。
ただ“近い”だけ。
それなのに。
(……無理)
ユカリは内心、頭を抱える。
「ユカリ先輩、気をつけて」
その声も、距離も、いつも通りなのに。
全部が少しだけ“特別”に聞こえる。
ユカリは笑うしかなかった。
「……うん、ありがとう」
でもその声は少しだけ揺れていた。
その様子を見て、爆豪は小さく息を吐く。
(……やっぱり)
ちゃんと効いてる。
嫌じゃなかった。
むしろ、意識してる。
それが分かってしまったからこそ、引けなくなる。
轟も同じだった。
(もっと、ちゃんと向き合わないと)
軽い気持ちじゃない。
もう、戻れない距離にいる。
三人とも分かっているのに、まだ言葉にはできない。
川の音だけが、その間を流れていった。