第11章 合宿
それだけだったはずなのに。
「おい!!」
「ユカリ先輩!」
ほぼ同時。
二方向から声。
爆豪と轟が、ほぼ同じ速度で駆け出していた。
「はっや!!」
「速すぎだろ!!」
周囲が一気に爆笑する。
爆豪はユカリの腕を即座に引いて支えた。
「何やってんだ」
ぶっきらぼうなのに、動きは完全に守りのそれ。
ほぼ同時に轟も反対側へ来て、足元を確認する。
「大丈夫ですか」
声は落ち着いているが、目はちゃんと心配している。
有加梨は挟まれる形で固まった。
「だ、大丈夫……ちょっと滑っただけ」
「“ちょっと”じゃねぇだろ」
爆豪が即ツッコミ。
「石、滑りやすいんで気をつけてください」
轟も静かに補足する。
その間も二人は手を離さない。
というか、離すタイミングを完全に失っている。
周囲はもう笑いを堪えきれない。
「即レスキューすぎる!」
「警護レベル高すぎ!」
ミリオは大爆笑していた。
「いやぁ〜いいねぇ!反応速度が青春してる!」
ユカリは顔を赤くしながら小さく抗議する。
「もう、大丈夫だってば……!」
その言葉で、ようやく二人が手を離す。
爆豪は舌打ち混じりに言う。
「次ふらついたらぶっ飛ばすぞ」
「えぇ!?」
その様子を見ていた出久が苦笑する。
「あの二人、ユカリ先輩を守る時だけ息ぴったりなんだよなぁ……」
切島が笑う。
「いや、守る対象に対してだけ全力すぎんだろ!」
「それな!!」
水音と笑い声の中。
ユカリだけが妙に落ち着かないまま立っていた。
(近い……)
ただそれだけ。
爆豪が隣に来るだけで、呼吸が乱れる。
轟が視界に入るだけで、心臓が跳ねる。
昨日までと同じ距離のはずなのに、まったく違って感じる。
(なんでこんな…意識するの…)
目を逸らそうとしても、自然に追ってしまう。
声をかけられれば普通に返せるのに、その前後が妙に長い。