第24章 演劇祭 after story
ユカリは視線を落とした。
静かに考える。
今日一日を。
稽古の日々を。
体育祭を。
合宿を。
学園祭を。
轟が何度も向けてくれた真っ直ぐな気持ちを。
そして。
爆豪自身のことも思い出す。
乱暴だけど、いつも飾らない言葉をかけてくれたことを。
気付けば。
爆豪の存在も。
自分の中で大きくなっている。
『……そろそろちゃんと考えた方がいい』
『え?』
『自分の気持ち』
あの時の環の言葉を思い出す。
ユカリはゆっくり息を吐いた。
そして正直に答える。
「……真剣に考えなきゃなって」
爆豪は黙って聞いている。
ユカリは続けた。
「今までずっと逃げてた気がするの」
夜の空気は静かだった。
「誰かを傷つけたくなくて」
「今のままが居心地よくて」
「だから答えを出さないままにしてた」
ユカリは少し苦笑する。
「でも今日、轟くんの演技を見て」
ううん、違う。
演技だけじゃない。
あの人がずっと伝え続けてくれた気持ち。
それを思い出した。
「ちゃんと向き合わなきゃいけないって思った」
逃げずに。
曖昧にせずに。
誰かの気持ちを。
そして自分の気持ちを。
ユカリはゆっくり顔を上げる。
「だから」
少しだけ照れたように笑う。
「ちゃんと考える」
それが今出せる唯一の答えだった。
爆豪は何も言わない。
ただ静かに聞いていた。
表情も変わらない。
けれど。
その赤い目だけが僅かに細められる。
ユカリは知らない。
その言葉だけで。
爆豪の胸の中にあった焦りが、少しだけ和らいだことを。
少なくともユカリは逃げない。
向き合うつもりでいる。
それだけで十分だった。
夜風が二人の間を通り抜ける。
門限まであと少し。
寮の灯りが静かに二人を照らす。