第21章 転入生
搭乗案内のアナウンスが響く。
『――アメリカ行き○○便をご利用のお客様』
時間だった。
凛は静かに立ち上がる。
スーツケースを引く。
長い通路。
搭乗口。
本当に。
これで最後だ。
凛は自分に言い聞かせる。
もう十分だろ。
会えた。
話せた。
思い出せた。
だから。
これでいい。
そう思って前を向いた。
――その時。
「待ちなさいそこのバカ!!!」
聞き慣れた声。
凛の足が止まる。
え。
まさか。
振り返る。
そこにいた。
びしょ濡れのユカリ。
その後ろには同じくずぶ濡れの環。
二人とも息を切らしている。
髪から水が滴っていた。
制服もぐしゃぐしゃ。
明らかに全力で走ってきた。
凛、完全に固まる。
「……え」
次の瞬間。
ユカリが一直線に飛び込んできた。
勢いそのまま。
ぎゅっ。
凛を抱きしめる。
「っ……!」
凛の目が大きく開かれる。
ユカリは怒っていた。
珍しく。
本気で。
「バカ!!」
「一人で行くとかほんとバカ!!」
「凛のバカ!!」
普段そんな言葉使わない。
そんな怒り方もしない。
だから。
凛は完全に面食らった。
「え、いや……」
「夕方って言ったじゃん!!」
「……ごめん」
「ごめんじゃない!!」
ユカリ、怒りながら半泣き。
環はその横で肩で息をしている。
「……傘、忘れた」
「そこじゃないでしょ環!!」
ユカリのツッコミ。
空港の人たちが何事かと見ている。
でも。
そんなの気にならないくらい。
ユカリは必死だった。
凛は抱きしめられたまま動けない。
胸の奥が熱い。
苦しい。
嬉しい。
どうしようもないくらい。
ユカリは凛を見上げる。
涙で少し目が赤い。
「ちゃんと見送りたかったのに、勝手にいなくならないでよ……」
その声。
震えていた。
凛はしばらく何も言えなかった。
やがて。
小さく笑う。
困ったみたいに。
「……そんな顔されたら、帰りづらくなるだろ」
その声も。
少し震えていた。