第21章 転入生
崩落エリアは静かだった。
さっきまで激しくぶつかっていたとは思えないほど。
ただ。
瓦礫が崩れる音だけが遠くで響いている。
凛は俯いたまま動かない。
拳を握り締めている。
震えている。
出久の言葉。
全部。
図星だった。
凛がユカリをずっと好きだったのは本当。
幼稚園の頃から。
ずっと。
でも。
最初から。
連れて帰る気なんてなかった。
できるわけがない。
だって。
自分は壊れている。
右腕。
いつ機能を失うかわからない。
次に壊れれば終わり。
そんな爆弾を抱えたまま。
誰かを守れるわけがない。
ましてやユカリを。
凛はずっとヒーローを目指してきた。
誰より努力した。
痛みに耐えた。
リハビリも。
訓練も。
全部。
全部やった。
それでも。
現実は残酷だった。
“完全には戻らない”。
その事実だけが。
ずっと心に刺さっている。
だから。
思ってしまった。
――いっそ諦めるなら。
――壊れる前に。
――ヒーローを夢見たまま終わるなら。
その前に。
もう一度だけ。
ユカリに会いたい。
ただそれだけだった。
日本に来た理由。
結婚の約束。
連れて帰る。
全部。
半分は冗談で。
半分は願いだった。
ユカリと過ごした時間が。
あまりにも綺麗だったから。
凛はゆっくり顔を上げる。
その目はもう怒っていなかった。
代わりに。
どうしようもない苦しさが滲んでいた。
「……なんで」
掠れた声。
「なんでお前が、そこまで見抜くんだよ」
出久は息を切らしながら立っている。
もうボロボロだ。
それでも。
その目だけは真っ直ぐだった。
「見抜いたんじゃない。見てたんだ」
凛が目を細める。
出久は眉を下げて笑いながら言った。
「……だって君、ユカリ先輩を見る時だけ、すごく優しい顔するから」
その言葉に。
凛は何も返せなかった。