第20章 保健室当番
翌朝。
まだ静かな雄英高校の保健室。
窓から入る朝の光が白いカーテンを揺らしていた。
ユカリは、保健室のロッカー前で白衣に腕を通す。
少しだけぶかっとした白衣。
袖を整えながら、昨日の会話を思い出していた。
――――――
『お前の担任には言っとく』
相澤は保健室の椅子に座ったまま言った。
『登校したらそのまま保健室に来い』
『はい』
『あと』
相澤はじっとユカリを見る。
『誰かに話すと厄介だから話すなよ』
『え?』
『絶対面倒になる』
真顔だった。
ユカリは苦笑する。
『そんな大げさな……』
『大げさじゃない』
即答。
『特に1年には言うな』
『なんでですか』
『保健室が終わる』
意味が分からなかった。
だが相澤は本気だった。
――――――
「……終わるって何」
白衣の袖を整えながら、ユカリは小さく笑う。
結局、誰にも話していない。
ねじれにも。ミリオにも。環にも。
もちろん。
爆豪や轟にも。
静かな保健室。
時計の針の音だけが響く。
その時。
ガラッ。
保健室の扉が開いた。
ユカリが振り返る。
入ってきたのは――
心操人使。
眠そうな目。片手には湿布。
どうやら朝練で少し痛めたらしい。
心操は入ってきた瞬間、ぴたりと止まった。
「………」
ユカリも一瞬固まる。
そして心操がゆっくり口を開いた。
「……なんでユカリ先輩いるんすか」
ユカリは少し笑った。
「今日は保健室当番なんだ」
「……は?」
理解が追いついていない顔。
白衣姿のユカリ。
静かな保健室。
朝の光。
妙に絵になっている。
心操が黙っているのを見て、ユカリは苦笑する。
「あ、やっぱり変かな?」
「変っていうか」
心操は視線を逸らした。
「朝から心臓に悪いっす」
「え?」
「……なんでもないです」
そのまま椅子へ座る。
ユカリは自然に近づいた。
「どこ怪我したの?」
「手首」
「見せて?」
白衣の袖から伸びる手。
優しい声。
近い距離。
心操、静かに思う。
(これ今日絶対ダメな日だ)