第4章 刺激
あの日から、神威はちょくちょく店に顔を出すようになった。
最初のうちは、神威が来る度ママは怯えていたけど、毎度上機嫌に帰る彼を見て、最近は安心し始めているみたい。
「時雨、今日もご苦労様。どうだい?あの方には慣れたかい?」
「うん♪思ったより優しいし、結構面白いかも!」
「そうかい。ならいいけどさ。時雨…」
ふとママの声色が変わった。
「どうしたの?」
「あの方を絶対に怒らせちゃあいけないよ。」
「ねぇ?神威様って、そんなに怖いの?」
「怖い….…なんてモンじゃないよ…」
確かに神威の笑顔は、独特の不気味さがあるけれど、怒鳴ることもないし、まして、手をあげることもないし、むしろ、優しいとさえ思う。
そんな神威に、どうしてママはこんなにも怯えているんだろう?
その日の営業終わり。
私は客とアフターに行っていた。
「じゃあ、清水の旦那。ここでいいよ。」
「お?そうかい?夜道は危ないから、おじさんがちゃぁんと、家まで送り届けてあげるよ?」
「あはは!大丈夫!慣れてる道だし。それに…旦那と二人きりの夜道の方が危険だし(笑)」
「時雨も言うようになったなー!」
「冗談♪ありがとうね!」
「おうよ!」
私は人気のない夜道を一人歩き出した。
送ってもらっても良かったのだけど、今夜は一人で考えたい事もあったから、清水の旦那の好意を断った。
考えたい事…。
それはもちろん、神威の事。
分からない事は沢山あるけど、まだ神威とは出会ったばかりだし、これから自分で知っていけばいい。
そんな事を考えながら、最後の曲がり角を曲がると、人影があった。
ピクリとも動かない人影は、どんどんと距離が縮まるにつれて、ようやく正体を現した。
「か、神威様…!?」
「やぁ。」
考え事の張本人でもある神威が、突然目の前に現れたから、私は少し戸惑った。
それに…あれ?……何か手に……
ポタ………ポタ…………
ーーー!!?
神威の手から、音を立てて零れているソレは、真っ赤な鮮血だった。
「神威…様……?」
「どうしたの?」
「そ、それ……は……」