第4章 刺激
「時雨ちゃん、次3番テーブルね!」
今夜も同じ夜が始まる。
加賀さんは…まだ来てないみたい。
「ふぅ〜。」
「お、時雨!お疲れ〜」
待機部屋に戻ると小夜が煙管を加えながら、化粧直しをしていた。
「小夜も休憩?」
「まぁね。菊屋の旦那、やっと帰ってくれたよ〜」
「菊屋の…あぁ。あのお触り男ね、、」
「そうそう。まったく、毎回かわすのに疲れるよ…今日もさぁ……」
小夜の愚痴を聞きながら、煙管に火を付けようとした、その時。
バタバタと足音がして、焦った顔でママが部屋に飛び込んできた。
「ママ?」
「あ、時雨!良かった。ちょっと、あんた、すぐ出れるかい?」
「え?まぁ、いいけど?どうしたの?」
呼吸も整わないまま、ママは私を連れ出した。
「ちょ、ママ!?なに?」
「いいかい。あんたには、これから大事な仕事をしてもらうよ!」
「お得意様?」
「お得意様なんてモンじゃないよ!“あの方”は吉原で最も特別な方なんだ。」
“あの方”?
吉原で最も特別な人?
私でも知らない人がいたんだ…。
「と、兎に角!絶対に粗相のないように!頼んだよ!」
いつになく真剣なママの言葉に押され、通されたのはフロアから少し離れた小さな個室。
いわゆるVIPルームってやつ。
長いことこの店で働いてるけど、VIPルームに入るのは初めてだった。
「た、大変お待たせ致しました!」
視線の先には見たことのない2人の男。
一人は片腕で、背も高く、なんだか人相も…良くない感じ。
もう一人は…まだ若い?
長い赤髪を三つ編みに結わいた男は、美味しそうにご飯を食べている。
「お、来たな。んじゃあ、俺は出るぜ。団長、あんま無茶やらかすなよ。」
片腕の男は、私が来るなり部屋を後にした。
…ってことは、私が相手をするのは、この若い人?
「分かってるよ。ねぇ、君。早くこっちへおいでよ。」
「は、はい。」
片腕の男とママが部屋から遠ざかる足音がした。
特別な人としか聞いてないんだけど…この人はいったい…?