第3章 上客
「今晩は。また来てしまったよ。」
「いらっしゃい、加賀さん。いつもありがとう。」
優しいし、無理強いはしないし、毎晩のように会いに来てくれるし。
加賀さんは、確かに“上客”なんだと思う。
でも、正直言うと、私にとってはそんなことはどうでも良かったりする。
「じゃあ、時雨ちゃん。今夜もありがとう。」
「こちらこそ!」
「うん。また来るよ。」
「はい!お待ちしてます。」
加賀さんは、いつも色々な話をしてくれる。
吉原で育った私にとって、地上の話を聞くのは割と楽しみだったりする。
今は、地上への行き来も自由になっているけれど、ほとんど毎晩お店に出なきゃいけないしで、なんだかんだ吉原(ここ)を離れずにいる。
「加賀さん、今夜も来てたんだね〜!」
ホロ酔いなママは上機嫌。
「そういや、加賀さんとはアフター行かないのかい?」
「うーん、確かに。」
「アレだけの上客なんだ。あんたの方から誘っても良いんじゃないのかい?」
「ま、そのうちってことで。」
「店のためにも、頼んだよ〜」
お店のため。
お金のため。
まぁ、それも大事なのは確かなのだけれど。
どうしてかな…….
ヤル気がないわけじゃないのに、何をしてても心から満たされたこと、今までない気がする。