第2章 吉原
『いらっしゃいませ』
煌びやかな店内に、黒服の声が響く。
「えっと、時雨ちゃん。いる?」
「いつもありがとうございます!もちろんです!今、呼んで参りますので、少々お待ちくださいませ。」
フロアの先にある小さな部屋。
そこは、“更衣室”と言う名の、待機部屋。
指名を待つ者、化粧直しに勤しむ者、女同士の会話に夢中になる者、様々な女で賑わっている。
「時雨ちゃん、指名だよ。」
黒服が私を呼びにやって来た。
「時雨〜、また、いつもの旦那かい?随分な上客捕まえたじゃないか〜」
鏡ごしに小夜がニヤニヤと笑いかけて来た。
「うーん?そうかな?」
「もーーとぼけちゃってさ〜」
小夜と私は、生まれも育ちも、この吉原。
幼い頃から一緒に過ごしてきた、言わば幼馴染みたいな関係。
「時雨ちゃん、出れる?」
「うん。」
「時雨!飲み過ぎんなよ〜」
「はーい」
黒服に連れられ更衣室を出ると、
いつもの席に見慣れた背中があった。