第5章 笑顔の裏側
それから暫く神威は吉原に顔を出さなかった。
あんな事があったのに、私は割と冷静を保っている。
清水の旦那の事は、『最近見かけないね〜』と話になる程度で、神威に殺された事をみんなは知らないみたいだった。
「時雨ちゃん、加賀さんがお見えだよ!」
黒服に案内された先で、加賀さんが優しく微笑んでいた。
同じ笑顔でも、神威とはどこか違うなぁ…。
って、私ってば何考えちゃってんの!?
今は加賀さんが来てくれてるんだから!
「どうしたの?考え事?」
「あ、いえ、何でもないですよ♪」
「そうかい。何か悩みでもあるなら、いつでも相談してくれて構わないからね。」
「ありがとうございます。やっぱり、加賀さんは、頼りになりますね♪」
加賀さんと居ると、正直、とても安心する。
今まで、客はお金にしか見えてなかったけど、加賀さんと出会ってからは、そんな気持ちも変わってきた。
平凡。
加賀さんは、まさにそんな人。
「時雨ちゃん。あのさ…」
「なんですか?」
「今度、一緒に地上を見てみないかい?」
突然の誘いに、ドキッとした。
今までお店以外で会おうなんて言ったことなかったのに。
「ダメ…かな?見せたいものがあるんだ!」
いつになく真剣な加賀さんは、どこか照れたような顔をしていた。
私のために勇気を出してくれたのかな?
自惚れでも、その気持ちは嬉しかった。
「いいですよ。」
「本当かい?よかったぁ。」
「加賀さん、緊張してます?」
「そ、そんなことはないよ。」
「ふふ。楽しみにしてますから♪」
………………………
この時の私は、これから起こる事なんて全く考えていなかった。
全ては私が選んだ事。