第3章 君の知らない名前
食堂の喧騒の中、彼女の笑い声が聞こえる。
オルオの的外れな自慢話に呆れ顔を向け、ペトラが差し出したスープを嬉しそうに受け取っている。
その姿は、俺が出会う前の、ただの一兵卒としての彼女そのものだった。
「――あ、リヴァイ兵長。お疲れ様です!」
俺が通りかかったことに気づいた彼女が、弾かれたように立ち上がって敬礼を執る。周りの奴らもそれに倣う。
「……座れ。飯の邪魔をした」
それだけ言って通り過ぎる。
背中に突き刺さる彼女の視線には、上官に対する純粋な敬意と、微かな緊張しか含まれていない。
かつて、ふとした瞬間に視線が交差した時に見せてくれた、あの二人だけの秘密を共有するような甘い引き込みは、どこにもなかった。
他の奴らに見せる笑顔が、俺の前でだけすっと消える。
それが、今の彼女にとって俺が「最も遠い上官」であるという残酷な現実を突きつけていた。