第2章 2
ことみはしばらく黙ったまま、手元のグラスを見つめる。
さっきの男たちはもう別の席で騒いでいる。
笑い声も戻って、店もいつも通りらしい空気に戻っていた。
でも、
胸の奥だけが少しざわついていた。
「……大丈夫か?」
サンジの声で顔を上げる。
「え、あ……はい」
慌ててうなずく。
怖かった、と言うほどではない。
でも、
“海賊”って言葉が急に現実になった感じがした。
サンジは少しだけことみを見てから、小さく煙を吐く。
「港町は酒入るとああいうの増える」
「別に珍しくもねぇよ」
言い方は軽い。
きっと本当に、珍しくないんだろう。
ことみは小さく「そっか……」とつぶやく。
漫画やアニメで見ていた時は、
こういう“空気”まで深く考えたことがなかった。
楽しい冒険。
派手な戦い。
仲間。
そういう印象の方がずっと強かったから。
でも実際は、
酒臭くて、
声が大きくて、
ちょっと怖い人たちも普通にいる。
この世界はちゃんと“危ない海”の上にあるんだと、
ほんの少しだけ実感した。
その時、
「まぁ、お前が気にする必要はねぇよ」
サンジが当たり前みたいに言った。
「……え?」
「俺らといる時は、余計なこと考えなくていい」
さらっとした声。
でもその言葉は、不思議なくらい真っ直ぐ胸に落ちた。
ことみは思わず目を瞬かせる。
サンジはもう普通にメニューを見ていた。