第2章 2
「だってほんとにすごいんですもん……」
ことみは苦笑しながらパンをちぎる。
外を歩いてる時も思ったけど、
この世界は何もかも勢いが強い。
人も、声も、匂いも、全部。
現実なのに、ずっと物語の中みたいだった。
その時、
「おい兄ちゃん!」
突然、大きな声が飛んだ。
さっき入ってきた海賊のひとりだった。
顔が赤い。
かなり酔っているらしい。
男はジョッキを片手にサンジを見る。
「その女、連れか?」
ことみの肩がぴくっと揺れる。
でもサンジは特に表情を変えなかった。
「だったら何だよ」
静かな返し。
男はニヤニヤ笑いながら近づいてくる。
「いやぁ、別に?」
「こんな港町じゃ女連れてると面倒も多いぜって話だ」
酒臭い息。
荒い笑い声。
さっきまで“漫画みたい”と思っていた空気が、少しだけ現実味を帯びる。
ことみは無意識に背筋を伸ばした。
すると、
カタン。
サンジが静かにグラスを置く。
それだけなのに、空気が少し変わった。
「酔ってんなら自分の席戻れ」
声は低い。
怒鳴ってるわけじゃない。
でも、さっきまでとは違う温度だった。
男もそれを感じたのか、一瞬だけ笑みが止まる。
周りの仲間が慌てて声をかけた。
「おい、やめとけって」
「絶対面倒なやつだぞ、その兄ちゃん」
「……チッ」
男は舌打ちして肩をすくめる。
「冗談だろ」
そう言って戻っていった。
店の空気が少しずつ元に戻る。
ことみは、止めていた息をそっと吐いた。
するとサンジが何事もなかったみたいに煙草をくわえ直す。
「だから港町は面倒なんだよ」
軽い口調。
でもさっきの一瞬だけ、
ことみは初めて少しだけ見た気がした。
“海賊”としてのサンジを。