第2章 2
ことみは慌ててその背中を追いかけた。
港から少し離れるだけで、街の空気がまた変わる。
露店の呼び込み、酒場から漏れる笑い声、見たこともない魚を捌く音。
全部が騒がしいのに、不思議と生きている感じが強かった。
「すご……」
思わず周りを見回していると、
「はぐれんなよ」
前を歩いていたサンジが、振り返らないまま言う。
「あ、はい!」
慌てて距離を詰める。
人混みの中でも、サンジは迷いなく進んでいく。
その背中を追っているだけなのに、少しだけ安心する自分がいた。
(……ほんとに一緒にいるんだ)
改めてそう思う。
画面の向こうだった存在が、今は普通に隣を歩いている。
しかも、
「腹減ってるだろ」
とか、
「足元見て歩け」
とか、
そんな何気ない言葉を、当たり前みたいに投げてくる。
現実感があるのに、まだどこか夢みたいだった。
その時、横の店先から威勢のいい声が飛ぶ。
「おう兄ちゃん!嬢ちゃん連れか!」
「うち寄ってけよ!」
サンジは軽く手を振る。
「悪ィ、今日は別の店だ」
返し方まで妙に馴染んでいて、ことみは少しだけ目を丸くした。
(“この世界で生きてる人”なんだ……)
当然のことなのに、なぜか今さら実感する。
するとサンジがふと足を止めた。
「ここだ」
顔を上げる。
港通りの少し奥。
木造の、小さな食堂だった。
扉の向こうから、香ばしい匂いが流れてくる。
その瞬間、ぐぅ、と情けない音が鳴った。
「……っ!」
ことみが慌ててお腹を押さえると、
サンジが吹き出す。
「ハハ、正直でいいじゃねぇか」
からかうみたいに笑いながら、扉を開けた。
「ほら、入れよ。腹減ってる時に考え事してもロクな答え出ねぇぞ」