• テキストサイズ

夢のまま【サンジ】

第2章 2


ことみは慌ててその背中を追いかけた。

港から少し離れるだけで、街の空気がまた変わる。

露店の呼び込み、酒場から漏れる笑い声、見たこともない魚を捌く音。

全部が騒がしいのに、不思議と生きている感じが強かった。

「すご……」

思わず周りを見回していると、

「はぐれんなよ」

前を歩いていたサンジが、振り返らないまま言う。

「あ、はい!」

慌てて距離を詰める。

人混みの中でも、サンジは迷いなく進んでいく。

その背中を追っているだけなのに、少しだけ安心する自分がいた。

(……ほんとに一緒にいるんだ)

改めてそう思う。

画面の向こうだった存在が、今は普通に隣を歩いている。

しかも、

「腹減ってるだろ」

とか、

「足元見て歩け」

とか、

そんな何気ない言葉を、当たり前みたいに投げてくる。

現実感があるのに、まだどこか夢みたいだった。

その時、横の店先から威勢のいい声が飛ぶ。

「おう兄ちゃん!嬢ちゃん連れか!」

「うち寄ってけよ!」

サンジは軽く手を振る。

「悪ィ、今日は別の店だ」

返し方まで妙に馴染んでいて、ことみは少しだけ目を丸くした。

(“この世界で生きてる人”なんだ……)

当然のことなのに、なぜか今さら実感する。

するとサンジがふと足を止めた。

「ここだ」

顔を上げる。

港通りの少し奥。

木造の、小さな食堂だった。

扉の向こうから、香ばしい匂いが流れてくる。

その瞬間、ぐぅ、と情けない音が鳴った。

「……っ!」

ことみが慌ててお腹を押さえると、

サンジが吹き出す。

「ハハ、正直でいいじゃねぇか」

からかうみたいに笑いながら、扉を開けた。

「ほら、入れよ。腹減ってる時に考え事してもロクな答え出ねぇぞ」
/ 57ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp