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HQ短編集

第6章 天下の及川さんでも本命の前ではこうなっちゃうよねって話



「鍵締めて返しとくから」
「いいよ、俺がやる。待たせてるんでしょ」
「あー、うん。ならお願いしようかな」


そう結論付けてもびびりな私は結局こうなってしまう。無視してさっさと帰ればいいものを、施錠して職員室へ戻しに行くと言う手間を及川1人に押し付けることができなくて。

できなかったからこそ、彼の席の前を通り過ぎようとした時、手首を掴まれその進路を妨害されてしまうんだ。

跳ね上がる肩とどくんとなった心臓。口の中の水分が尋常じゃない速さでなくなっていく感覚に眩暈がしそうだった。


「ねぇ」
「な、なに」
「俺があんな男と一緒に帰るなよって言ったらどうする?」
「普通に無理って言うけど」
「はぁ!?なんでさ!?」
「いやなんでって言われても」


友達だし1時間以上も待たせてるし、それに。
私が片思いしてることを知っているからこそ、早く今のこの現状を話したいし聞いてほしいって言うのが1番の原因だったりするけど、じわじわと掴んでいる及川の手の力が強くなっていくような気がして、表情は不機嫌そのもの。

まだ座ったままの及川をじっと見下ろす私の視界には入っていても、どうしてか視線は一度も交わらなくて、及川の手が触れていると言う事実に、内心パニックな私はパニック故の思考のバグをどうやら拾ってしまったらしい。

女は度胸、理由を問いただせ、なんて言葉がなぜかふと浮かんでしまった。

 
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