第3章 恋愛の三種の神器を語っていたら、目の前の男が全部持っていた話
「幻聴?」
「アホか」
「夢?」
「試しにほっぺた抓ったろか?」
めっちゃ痛いやつ。悪戯を仕掛ける前の、わくわくにも似た表情がどこかの大型犬とそっくりそのまま重なって見える。突拍子もない爆弾発言はあんたの片割れの専売特許でしょ。そんな冗談はそのイケメンフェイスだけにして頂きたい。
「一個ずつ言うてこか?なんやったら」
「なに言う気だよ」
「お前のその絶対条件に俺がジャストフィットしとる理由?」
いや結構です。遮るより早くお口が回る彼はどうしてかいつもより饒舌だった。
お前も俺も食うの好きやろ、そんな奴らが食の好み合わんわけないし、笑のツボどころか思てること一緒で言葉被るとき何回あんねん。
地頭ええから冷静に物見れるし接客業しとんやぞ?話し合いもごめんもありがとうもお手のもんや。あ、納得いかんかったら謝罪はせんけどな。
「ちょっと待ってちょっとストップ!」
「なんやねん」
つらつらと気持ちよく喋ってるとこ悪いけど、あまりのリズムの良さに圧倒された私にも噛み砕く隙を与えてはくれないだろうか。
ドックトレーナーよろしくカウンターの奥でさっきの私と同じように前のめりな治を手のひらで静止した。無理やり止められた彼はあからさまに不服な顔を晒してる。
確かに治の言う通り食と笑いはめちゃくちゃ合う。世界中どこを探してもこの男以上に合う人なんていないんじゃないかレベル。
口は悪いし喧嘩もするけどなんだかんだ優しいのは私が1番よく知ってる。だから治の言い分もほぼ共感できる。でも、
「私のこと大好き、はジャストフィットしないよね」
「そこが1番ジャストフィットするやんけ」
「いやどこが?そんな素ぶり全くなかったじゃん!」
「そらそうや、見せてへんねんから」
さらっとすごいこと言ったなコイツ。1番ジャストフィットするって、大口を叩くにもほどがあるんじゃないかと睨んでやれば、治の表情に言葉が詰まった。
売り言葉に書い言葉、むきになって面白おかしく茶化してると思ってたのに、私の視界には目を細めて笑う、見たこともない優しい顔。
その目に映ることが妙に恥ずかしくて怖くて咄嗟に視線を逸らしてしまった。