第3章 恋愛の三種の神器を語っていたら、目の前の男が全部持っていた話
「なんか良いと思ったんだよ、最初は」
「まぁ思わんかったら付き合わんわな」
「そうだよ。だから次は絶対妥協しない」
「せやから三種の神器は必須、ってか?」
「そう!もうこれ絶対だから!」
「けど、3つでええん?」
2回目のいただきますは品も行儀もなにもない。美味しいものが湯気を纏って目の前にあるんだ、豪快にかぶりついてやるのが最大級の礼儀だと、欲に従ってがっついている所に治の声が落ちてきた。
そうしてはたと気づく。3つじゃだめだな。4つ?いや5つか?
「食、笑いのツボ、セックス、顔面、………」
「ほんで?」
「ちゃんと話し合いできる人、ごめんとありがとうも言える人」
「それだけでええんか?」
「あー、あと私のこと大好きな人。これも絶対だな」
「後出しがすぎるんよ」
後出しだろうが先出しだろうがなんでもいい。数多の経験を逐一報告してきた私はそれだけの失敗と傷があるんだよ。お前もうホンマどうしようもないな、みたいな顔で笑ってる治だって知ってるくせに。毎夜どれだけこのカウンターに恨み節を染み込ませてきたのか。私はそろそろ落ち着きたいの。
3つでも5つでも到底足りなかった理想は自分を幸せにするための条件であって、恋愛こそ如何にそこを曲げずに挑むかが重要だと思う。
「お前のそれ、どんぴしゃで全部持ってるやつ1人知っとるけど、」
「え、マジで?」
「マジの大マジや。紹介したってもええで?」
「ほんとに!?どんな感じの人?」
鴨がネギをしょってきた。それも立派な。それも猛スピードで。古い付き合いの彼からこんな朗報が舞い込むなんて誰が思おうか。
親戚にあなたもいい歳なんだからそろそろ、なんて数日前に持ってこられた見合い写真開けた時より何倍もテンション上がるわ。
容姿を!性格を!早く!テーブルから飛び出さん勢いで前のめりに圧をかけると、そんな私にさえ臆することなく彼は言葉を続ける。唇の端まで上げて。
「俺や」
「…………ん?」
「せやから、俺。全部持っとるやん」
「…………」
「おい固まんなや」
今目の前の男はご丁寧に自分を指さして、俺、と言った、のか?あれ?職場の健康診断で視力も聴力も引っかかってないはずなんだけど。おかしいな。