第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **
ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
……恵くん。
会いたいよ。
もう一度、恵くんに会いたい。
こうしている間にも、姑獲鳥が戻ってくるかもしれない。
またあの腕に捕まったら、今度こそ逃げる機会を失ってしまう。
私は何度か深呼吸をして、手の甲で涙を拭った。
泣いてる場合じゃない。
私だってもう、五歳の子どもじゃない。
高専で呪術を学んできたんだ。
戦って勝てなくても、逃げる方法を探せばいい。
私は立ち上がり、周囲を見回した。
衣類の山の間を歩き、壁になっている布を押してみる。
どこまで進んでも同じような景色が続いていた。
それでも、どこかに外とつながる場所があるはず。
そう自分に言い聞かせ、もう一度辺りを探ろうとした時だった。
「…………?」
何か、聞こえた。
私は音のする方へ足を踏み出した。
積み重なった衣類をかき分けて進むと、やがて一枚の白い布が垂れ下がっている場所に出た。
耳を澄ませると、その向こうから聞こえてくる。
『――……恵、そっちは?』
『……まだ、何も』
この声……!
五条先生!
それに、恵くん!
私は夢中で布に手を伸ばしたが、何かに押し返されてしまう。
目の前には薄い布しかないのに、まるで硬い壁でもあるかのように、それ以上先へ進めない。
ここにいるよ!
恵くん!
私、ここにいるの!
何度も、何度も。
手のひらが痛くなるほど、見えない壁を叩いた。
けれど、二人が気づいた様子はない。
私には二人の声が聞こえているのに、こちらの音は届いていないらしい。