第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **
全身にのしかかる、凄まじい呪力。
肌がひりつき、息を吸うことさえ苦しい。
頭では反撃しなきゃと思っているのに、身体が言うことを聞かない。
こんなの、どうやって戦えばいいの?
圧倒的な力の差を前に、私はただ震えることしかできなかった。
長い爪が私の髪に触れた。
絡まった髪を指先で梳き、何度も頭を撫でてくる。
覚えてる。
幼い頃、いつもこうして撫でられていた。
姑獲鳥は私を巣の真ん中へ戻すと、ずり落ちた毛布を肩まで引き上げた。
それから、私の頬に顔を寄せる。
『……もう……はナさない……』
全身がぞくりと粟立った。
顔を背けようとしたけれど、長く尖った爪がまだ私の髪に触れている。
もし、この爪が首に向けられたら……。
そう考えただけで、喉がひゅっと縮まった。
私は目をぎゅっと閉じ、震える身体を必死に縮こまらせていると、姑獲鳥が突然ピクリと顔を上げた。
外の気配を窺うように首を不自然に傾ける。
そして、私の身体から腕を離し、音もなく布の山の奥へと姿を消した。
姑獲鳥の姿が見えなくなると、やっと息ができるようになった。
あの頃は、こんなにも恐ろしいものだなんて知らなかった。
あの冷たい腕の中が、世界のすべてだったから。
でも、今は違う。
私の居場所はここじゃない。
私には、帰りたい場所がある。
恵くん。
津美紀ちゃん。
五条先生に、みんな。
帰りたいよ。
会いたい。
だけど、どうやって?
ここから逃げる方法なんて、わからない。
ポケットからスマホを取り出し、恵くんに連絡しようとしたが、画面には『圏外』の文字。
何度試しても、電波は入らなかった。
見渡す限り、積み重なった服やタオルばかり。
どこに出口があるのかも、見当がつかなかった。
このまま、ずっとここに閉じ込められるの……?
もう二度と、恵くんに会えないの?
そんなの……そんなの、嫌だよ……!