第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **
「恵くん!! 私、ここにいるの!!」
その瞬間、目の前の空気がピシリと軋んだ。
同時に、奥で何かが蠢く。
周囲を囲む衣類の山がざわざわと揺れ始めた。
さっきまで遠ざかっていた、あの禍々しい呪力。
それが、ものすごい勢いで膨れ上がっていく。
黒い羽が、暗闇の向こうで大きく広がった。
『……ヤッパリ……アノ男ガ……ッ!!』
鼓膜が破れそうなほどの絶叫が、巣の中に響き渡った。
積み上がっていた大量の衣類が、暴風のような呪力に煽られて一斉に舞い上がる。
『ユルサナイ……ヒき離スモノハ……みンナ、殺ス……ッ!!』
黒い塊が、凄まじい速度でこちらへ突っ込んでくる。
その濁った瞳が見据えているのは、私のすぐ後ろ、壁の向こうにいる恵くんだ。
「……っ、だめ……!」
とっさに両手を広げ、見えない壁の前に立ち塞がった。
けれど、横から伸びてきた黒い翼が、私の身体を乱暴に薙ぎ払った。
「きゃあっ……!」
衣類の山へと突き飛ばされ、視界がぐるりと回る。
顔を上げた時には、姑獲鳥の巨体が、目の前の見えない壁へと激突していた。
バキィッ、とガラスが砕けるような音が響き渡る。
外からの侵入を拒み続けていた強固な結界が、姑獲鳥自身の呪力によって内側から引き裂かれた。
垂れ下がっていた白い布が千切れ飛び、その向こうに薄暗い工場の景色が広がる。
『アアアアアアッ!!』
姑獲鳥が、裂けた空間から外へと飛び出していく。
そのすぐ先に立っていた人影に、鋭い爪が振り下ろされた。
「――鵺!!」
聞き慣れた声が響き、視界の先で紫色の電光が弾ける。
鵺の巨大な翼が、振り下ろされた爪を受け止めた。