第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **
「周りの建物や物に呪力を馴染ませて、『外から隠すこと』に徹底してるからね。ここまで同化されると、見ただけで境界を見つけるのは難しいかな」
外からの隠蔽に特化した結界。
だが、呪術において一方的な得はないはずだ。
「……でも、それだけの結界なら、何か差し引きがあるはずですよね」
「その通り。現実の物質を取り込んでまで隠蔽力を上げてるなら、その代償として、どこかに必ず『綻び』ができるはずなんだよね」
「綻び……」
「取り込んだ物質が現実側と接している部分に、完全には閉じきれない継ぎ目が生まれる。……まあ、この広さの中からそのわずかな綻びを見つけ出すのも、骨が折れるんだけどね」
五条先生がぐるりと工場の内部を見渡す。
「もう一度、手分けして探そう。少しでも不自然な場所があれば教えて」
「……はい」
俺も再び、辺りを見回す。
崩れかけた壁。
天井から垂れ下がった配管。
埃を被った、古い機械。
どこにでもある、ただの廃工場だ。
ノートに残されていた、たった一文字。
あれが『巣』を意味していたとしても、姑獲鳥がここを選んだとは限らない。
もし、見当違いだったら。
今こうしている間にも、は――。
何か伝えたいことがあるたび、俺の袖を引いて、一生懸命に手を動かしていた姿。
俺がそれを読み取ると、いつも嬉しそうに顔をほころばせていた。
そんな当たり前の光景が、もう二度と見られなくなるかもしれない。
最後に見たあいつの潤んだ瞳が、頭から離れなかった。
。
お前、どこにいるんだよ。