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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第9章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ II **


二人と別れて、私はなんとなく人通りのある方へ歩き出した。

本当は、買いたいものなんて特にない。
ただ、まっすぐ高専へ帰る気になれなかっただけ。


恵くんに、どんな顔をして会えばいいかわからない。


声を出したこと。
キスをしたこと。
抱きしめられたこと。

それから、私たち最後まで。


昨夜のことを思い出しただけで、身体が熱くなる。




恵くんから逃げるように部屋を抜け出したのは、数時間前のこと――。


目を覚ました時、最初に見えたのは恵くんの寝顔。
すぐ目の前にあって、驚いて息が止まりそうになる。

規則正しい寝息を立てながら、まだぐっすり眠っている。


こんなに近くで寝顔を見るのは、久しぶりかもしれない。
最後に一緒に寝たのは……津美紀ちゃんが呪われた日の夜だったな。


恵くんを起こさないようにそっと体を起こすと、あちこちに昨夜の余韻が残っているのが分かる。


夢じゃない。
本当に恵くんとしたんだ。

ずっと、恵くんとこんなふうになれたらって願っていた。
それが叶ってしまった。

なのに、どこか複雑で。


恵くん、どう思ってるんだろう。
昨日のあれは、もしかして――。


ううん。
恵くんには、彼女がいるんだもん。

何を期待してるんだろう、私。


ベッドから抜け出して、床に落ちていた自分の服を拾う。
昨夜借りた恵くんのTシャツと洗って返すはずだったTシャツを、丁寧に畳んで机の上へ置いた。


着替え終わって、部屋を出る前にもう一度だけベッドを見る。


本当は、このまま恵くんの隣にいたかった。
こんな風に一緒にいられるのは、もう最後だと思うから。


(恵くん、大好きだよ)


私は音を立てないようにドアを開けて、恵くんの部屋を出た。



カフェにでも入ろうかと歩いていたはずなのに、気づけば、また恵くんのことばかり考えていた。

ポケットからスマホを取り出すと、時刻は朝の十時を少し回ったところだ。


恵くん、もう起きたかな。

昨日のこと、後悔してるかな。
もう忘れちゃった?


自分で忘れてって言ったのに、恵くんの中に、私のことが消えずに残っていてほしいなんて思ってしまう。


考えれば考えるほど、足は高専とは反対の方へ向いていった。
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