第8章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない Ⅱ**
こういう時って、どうしたらいいんだろ。
誰かが帰ろうとして。
それを引き止めたいなんて、今までなかった。
向こうが離れたなら、それで終わり。
追いかける必要なんてなかったし。
だから、わからない。
何て言えば、は帰らない?
「……私も?」
「え?」
が今度はまっすぐ僕を見た。
その目に、うっすら涙が浮かんでいる。
「私も……同じですか?」
一瞬、何を聞かれてるのかわからなかった。
同じ?
あの女とってこと?
が?
「…………っ」
いつもなら、適当なこと言って。
冗談言って。
笑って誤魔化せるのに。
なぜか、何も出てこない。
「……ごめんなさい。変なこと聞きました」
「いや、――」
「帰ります」
が俯いて、僕の横を通り過ぎる。
違う。
そうじゃない。
今のは、そういう意味じゃない。
が僕から離れていく。
考えるより先に手が伸びて、その細い手首を掴んだ。
「」
「は、離して」
「…………」
「先生、離してっ」
いつもとは違う。
本当に僕から離れようとしてる、本気の声。
が僕の手を振りほどこうと、強く腕を引く。
「……やだ」
ほんと、僕何言ってんの。
「……え?」
「だって、離したら帰るでしょ」
が目を見開いて僕を見る。
「せ……先生だって、さっき駅まで送るって言ったじゃないですか!」
「それは、が帰るって言うからでしょ。僕、帰ってほしいなんて言ってないし」
がますます困ったような顔になる。
今までのなら。
僕が少し引き止めれば、帰るなんて言わなかっただろう。
なのに今は、僕の知らないところで恵とあんなことして。
さっきまであんなに嬉しそうだったのに、急に帰るなんて言い出して。
僕の知ってるじゃなくなっていく。
僕は、それが嫌なのか?
手首を掴む手に、無意識に力が入る。